【書評】世界一スリリングな白雪姫。短編漫画『崖際のワルツ』が傑作。
最近、面白い漫画がないなとお嘆きの貴方へ。椎名うみを読んでから言ってもらおう。
青野くんに触りたいから死にたい
こういう漫画があります。
死んだ元カレが幽霊になって女の子に会いにくる話です。
Twitterだかで人気だそうで。
この事を知ったときの僕の感想は「はいはい」って感じでした。
舐めてました。
読んだら傑作なんですよ。
ラブコメという笑いの要素にホラーが入っている。
こういう漫画は昔からありました。
だいたいがラブコメ部分は添え物です。
ところが『青野くんに触りたいから死にたい』は違います。
笑いとホラーという相反する二つの要素がうまく相乗効果を作っている。
しかも心霊現象にもうまくルールを組み込んで謎が謎を呼ぶ展開。
これで新人とは信じられない。
ネタバレになるので書きませんが是非読んでもらいたい傑作です。
既刊3巻で連載中です。
椎名うみ
そんな素晴らしい漫画を描いた椎名うみ先生。
他のはないかなとkindleで探したら短編集が1冊だけありました。
3個の短編で構成されていますが今回はタイトルになっている『崖際のワルツ』。
こちらも素晴らしいのでご紹介。
どんな話
幼いころに演劇に魅せられたスーパー美少女・西園寺華。
高校演劇部に入部しテスト演技をすることになります。
そして華は心の中で唱えます。
「ここできめる」
「みんながあたしに夢中になる」
壮絶な棒読み+絶叫。
周りは唖然+失笑。
ちなみに華は何で周りが笑っているのかわかりません。
この作者のヒロインはみんな少しズレているのです。
そして空気が読めない人間に対して世界は牙を剥ます。
他の椎名うみ作品でもこのフォーマットは共通しています。
そして必ず救い主が登場するのです。
まさかの展開
華の壮絶な棒読み演技に可能性を見出した五反田律。
ペア演技の課題で華の相方に立候補します。
「面白いことは正義」はよく聞きます。
「つまらないことは悪」ってはじめて聞きました。
律も頭のおかしい人間なのがわかります。
しかし友達ができたと喜んでいる華と違い、律には勝算がありました。
律は友達とか温い考えは持っていません。
劇には白雪姫を選び、美しい顔と粗末な演技のミスマッチで楽しませようと画策しているのです。
その為に華には感情移入せずに演技するように指示します。
心はわからない。
どう思うかではなくどう表現するか大事。
華は律に嫌われたくないのでそれに従います。
そして発表日。
律は巧みな語りで冒頭から客を魅了。
訓練通りの華。
ところが華は友達になってくれた律に嫌われてたくないと指示に従ったことを後悔し始めます。
そして自分に正直に演技しようと決意します。
劇中なのに。
楽しくなってしまった華はこの狂気の笑顔で突っ走ります。
困惑する観客。
そして一番困惑するのは相方の律です。
芝居の意味が変わってしまう。
律も頭のおかしい人間です。
感覚だけの異才の華と計算しつくした華の共演がはじまります。
白雪姫をこんなスリリングに表現できるなんて考えもしませんでした。
終劇後。
絶賛するもの困惑するもの非難するもの。
全員に共通するのは「凄いもの」を観たという想いです。
帰り道で華と律は会話をします。
そこで２人が語る内容こそが「心と技」の関係です。
深いよ。
タイトルの意味も回収されます。
そして爽やかな終わりです。
最近、面白い漫画がないなとお嘆きの貴方。
まずはこの漫画を読んでから言いましょう。
短編ですが傑作です。
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